ブラックで飲む人
「よく『コーヒーはブラックでしか飲まない』って言う人がいるけど、あれって、砂糖やミルクやクリームを入れたものと入れてないものを飲み比べてから言ってるのかなあ? どうも『ブラックで飲むのがコーヒー通だ』って粋がっているようにしか見えないんだけど…。」
「まあ、そういう人もいるだろうけど、『コーヒーの純粋な味を味わうには何も入れない方がいい』っていう人もいるだろうね。粋がっている人もいるかもしれないけど、正直で純粋な心の持ち主もいるんじゃないかなあ。」
「それ、どういうこと?」
「コーヒーを飲む機会が多い人であれば誰しも、時には美味しくないコーヒーに出会うこともあるけど、実社会には予算や技術や人手の制約があるから、それは仕方ないことだと思う。条件に恵まれた人だけがコーヒーを飲むことを許される訳じゃないしね。そして、ブラックで飲むと美味しくないコーヒーでも、確かに砂糖やミルクやクリームを入れるとそれなりに楽しめるじゃない? でも、それを妥協だ、ごまかしだと考える人もいていいと思う。コーヒーをブラックで飲むとこだわることにより、美味しいコーヒーを飲みたいという自分の気持ちに正直に、誤魔化さずにいるんじゃないかなあ。」
「でも、だったら他人に『コーヒーはブラックでしか飲まない』なんて言わずに、黙って独りで飲んで欲しいよね。それに、最初の一口はブラックで飲んで、口に合わなかったら砂糖やミルクやクリームを入れれば済む話じゃない? 僕はカレーを食べるときには、いきなりソースはかけないよ、作った人に失礼だから。でも味が薄いと思ったら、ソースをかけるよ、美味しく食べたいから。何事も、最初から決めつけてかかるってのが嫌なんだよねえ。」
「まあ、『コーヒーはブラックに限る!』って他人に押しつけるのは勘弁して欲しいけど、コーヒーは嗜好品なんだから、ブラックで飲むって決めている人がいれば、それはその人のスタイルとして構わないんじゃないかなあ。むしろ『ブラックと言う前に砂糖、ミルク、クリーム入りと飲み比べろ!』っていうのも、自分のスタイルの押しつけだと思うよ。」
「おい、きれいにまとめるなよ。まだ言いたいことがあるんだから。」
(次の話へ続く)